不思議なご縁でであった役者さんがいます。舞台をメインに活躍されている方なのですが、テレビやCMでも時折お見かけしていて、個性的な役でインパクトのあるお芝居をされていらっしゃいます。
ある朗読のイベントで隣の席になり、私のほうからお声をかけさせていただきました。テレビでお見かけしているような鮮烈なイメージとは違い、誠実でとても穏やかな語り口が印象的でした。お若く見えるのに、お子様が3人もいらっしゃる子煩悩なパパさんでもあり、この日も授業参観を見てから来ましたとのこと…。話も弾み、観劇が趣味だと話すと、近いうちに舞台を控えているとのことで、チラシを頂き、連絡先を交換しました。その後、ばったり町でお会いすることもあり、よほどのご縁があるのかも…と思える方です。
最近も舞台に出演されたので、観に行きました。その後初めて少しだけお食事を兼ねて飲みに行きました。前置きが長くなりましたが、今日はそのときのお話です。
「役者になったきっかけは何だったんですか?」と問いかけると、「大学3年生で卒業までのほとんどの単位を取ってしまい、4年生のときは卒論を書くだけで暇だった。そんなときに、同じ大学の別所哲也さんに出合ったことがきっかけだったと思う。」とのこと。彼に誘われて演劇の道に足を突っ込んだとのことでした。別所さんというと、慶応大学出身だったはず。演劇に足を突っ込まなければ、もしかしたらエリート街道を進んでいたのかもしれない人だったのかも…。そのとき、「なんで彼は役者の道を選んだのだろうか?」という疑問が膨らみました。
というのも、私の周りにも売れない役者の知人が何人かいて、なかなか大変な生活をしています。夢を食べて生きているとはいえ、夢でお腹は膨らまない…。でも、自分の夢をどうしてもあきらめられないという、理想と現実の狭間で苦悩している人のほうが多いのが現実で、芸能の仕事というのは、とてもとても大変な世界だということを、間接的ながらも知ってはいました。
率直にその質問を彼に問いかけてみると、比較的テレビに出演できているときに、子供が出来て、一度役者を辞めようと足を洗ったことがあるとのこと。役者が仕事につながっている人でも、人気は水物だし、収入が安定していない不安があったのかもしれません。とある会社に仮入社が出来、研修期間中に外回りなどをしていると、街でよく声をかけられたとのことでした。サインにも気軽に応じていたそうなのですが、「役者を辞めてサラリーマンになった」というと、全ての人に「とても残念です。」と悲しい顔で言われ、そのたびに心が動揺したそうです。
あるときニコニコ笑って声をかけてきた女性がいました。聾唖の人で、振り絞るような声に思いをのせ、サインをお願いされたので、やはり気軽に応じたそうです。その女性に「役者はもう辞めた」旨を伝えたとき、今までとてもニコニコしていた彼女の顔が一瞬のうちに曇って今にも泣き出しそうな表情になったのだそうです。この様子を見て、自分はこんなにたくさんの色々な人たちを元気付けていたということを痛感したそうです。
正社員になるかならないかの答えを出す日が迫ってきて、毎日毎日、「自分はこのままでいいのか…」とどんどん陰に入って、苦悩する日々が続き、顔色も悪くなり、元気もなくなってきた様子をみかねた妊娠中の奥様が、「やっぱり役者を続けたら?」と。それからは、とても大変なときもあるけれど自分には役者の道しかないと確信できたのだそうです。
「確かに、サラリーマンをやっていたら、収入はいまよりずっと安定していたかもしれない。でも、それがイコール幸せだったとは思えない。人間には与えられた役目がある。自分が与えられた役目を見つけられた人はやっぱり幸せだと思う。」
神様がいるのなら、私はこの言葉を聞くために、この役者さんとの出会いを作ってくれたのかなぁと思いました。
私はまだ自分の役目をちゃんと見つけられていないと思います。だからこそ、人のうらやむ幸せじゃなくて、自分の幸せを探していきたい…。そう、自分の幸せは自分にしか分からないのだから。
ほろ酔いながら、強く心に大切な言葉を刻んだ帰り道でした。